背後から列車の気配を感じ、それでもまだ遠く異国の街で何処かの名も無い赤ん坊がすすり泣いているような微かな気配で、まだ脇へ身を寄せるのには早すぎるであろうと思われ、元のように俯き加減で、二本のレールの間の、敷き詰められた砂利の一つ一つを勘定するかのようにゆっくりと再び北へ歩を進め始めた。真上からの太陽の視線によって線路が焦げる音が聞こえてくるような、安らかな日である。
その人は北からやって来た。私と同じように何も持たず、ただ歩いているといったような雰囲気の、痩せた背の低い人であった。 「ありがとう」 「ありがとう」 北へ、駅を七つ通り過ぎ、南からの列車を八つ見送ったところで私は歩くのを止めた。交わした言葉はそれだけであった。
by asi384
| 2005-02-28 14:39
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